歌舞伎『月光露針路日本 風雲児たち』

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三谷歌舞伎『月光露針路日本 風雲児たち』を観た。 

これは三谷幸喜作・演出による、みなもと太郎の人気歴史漫画『風雲児たち』を原作としたもの。

 

大黒屋光太夫一行の遭難から始まり、仲間の死を経ながら、日本への帰国を目指してロシアを旅していく。そして、サンクトペテルブルクで女帝エカチェリーナに拝謁した後に帰国の途につくまでを実際の大黒屋光太夫の足跡を描く。

 

舞台が外国ということもあり、いわゆる歌舞伎とは雰囲気の違ったいわゆる演劇の手法を用いながらも、義太夫や三味線など歌舞伎の演出も組み込まれた新しいチャレンジ性を感じた。お客さんも、いつもの歌舞伎座よりもいろいろな層の人がいたように思う。

 

中身としては、三谷作品ということもあり、一幕目、二幕目と主に笑いが中心となって軽みをおびながら展開していくが、三幕目ではロシアに残る仲間との別れや、最後のシーンなどは最後に向かって重さを帯びてくるような演出により、最終的に結構しっかりした見応えのあるないようになった、という印象。

 

そもそも、一幕目、二幕目が軽すぎた感じがしていて、それは多分幸四郎のせいが大きい。

彼はどうやら喋りが軽いようだ。古典歌舞伎の時は普通なのだが、新作で現代語をしゃべらせると声に品がない。だから、怒鳴っているような、言い方が悪いが、ただ大きい声を出しているだけのような印象になってしまうのではないか。

 

一昨年くらいにみた、夢枕獏の作品で空海を主人公にした新作歌舞伎でも幸四郎(確か当時は染五郎)が主役だったが、同様に軽すぎという感想だった。あれは結局いいところ無しだった。

 

今回は他の役者や、脚本的なところで助けられてのか途中で見ていられないということにはならなかったが、幸四郎でなかったらどうだったのか(良かったのではないか?)という疑問すらある。

 

ポチョムキン白鵬もなんか微妙な感じだった。

 

台詞回しの松也はとても良かった。台詞回しは歌舞伎ではいろいろなら形があるし、ああいうのもありなんだと思う。あれこそ、歌舞伎的。

ロシアに残された二人が、光太夫に連れて行ってくれと頼み込むあたりは、確実に俊寛を意識している。

 

期待していただけに、少し拍子抜けたというのが実際のところだけど、眠くなることなく三幕観れたのは脚本が良かったから。

 

歌舞伎とはなにかと考えていくと、役者をかっこよく見せること、ではないかと思い至る。もっと役者自体を魅せる工夫があれば、より良くなるのではないだろうか。